2013年8月25日日曜日

11. みかん記念日



「本日、みかん記念日」と宣言したリルは、草原のアリたちを集めて、整列させて、みかんをふるまうことにした。

「いいかな、みんなそろった? 今日は、大切な、みかん記念日。わかってるわね? だから、この私が、アリの皆さんに、みかんをふるまいます。いいですね?」
 アリたちは、三角の頭を小さく振って、困った仕草をした。
「僕たち、みかんは、ちょっと……」
「おだまり。今日は、あなたたちは、みかんをありがたくいただかなくてはならないの。なぜなら、今日は、私が決めた、みかん記念日だから」
「ていうか、どうしてリルが、そんなこと、勝手に決めるの?」
「そうだよ」
「せめて理由を説明しろ」
「そうだそうだ」
「せめて砂糖にしろ」
「そうだそうだ」
 とアリたちがさわぎだした。
 
「で、結局、みかん記念日は、失敗したんだね?」
 と風の主さんはふわふわとリルに話しかけた。
「ん」
 リルは落胆して、テーブルにふしていた。
「さすがにあれはちょっと、強引だったかもしれないね」
「でもさぁ、『記念日』なんて、たいがい、強引なものだと思わない?」
「まあ、そうかもしれないけど」
「アリたちが悪いとは、私は思っていないの。本当よ。ただ、みかんを選んだことが敗因だった、という気がする。次回は、もうすこし正統的で、威圧的なものにする」
「威圧的なもの?」
「もんくをいって騒いだらいけないような雰囲気が最初からただよっているもの」
「例えば?」
「わかんないけど」
 風の主は苦笑した。
「で、次回があるのかい?」
「だって、この丘で、そんなにたくさんネタはないわよ、悪いけど」
「そうは言うけど、どうせリルはヒマなんだし。それに、みかん記念日だって、十分、新ネタじゃないか」
「そんなことより、言わせていただければ、最近、訪問者が少なすぎるのよ。だから、退屈して、アリ相手にストレス発散しなくちゃいけないんだわ。そう、わかった、原因は、アリでも、みかんでもない。訪問者を連れてこない風の主さん、あなたが悪い」
「え、私?」
「うん。ひとつ、しっかり反省して、次はとびきり面白い人をつけてくるように。わかった? わかったら、解散」

「今日は、なんというか、強引だな」
 と風の主は苦笑した。

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