2013年8月25日日曜日

10. 毒人間ギララ



「あのぉ〜」
「はい?」
「ちょっと、道に迷ってしまって」
「どちらに行かれるおつもりですか?」
「火山クエストに参加したはずだったんですが、それでクーラードリンクとかもちゃんと持って出てきたわけですが、どうもこのあたりは、全然火山ぽくないですね」
 リルは空にむかって「風の主さんは、火山の方向知ってる?」と聞いた。
「……」
「おーい、また寝てるなー、お客さんだよー」
「あ、失礼」
「風の主さん、いつもいつも失礼しすぎ。まるで、お客様なんかどうでもいいみたいな感じじゃん」
「それより、どうしたの?」
 リルは、紫色の服を着た少年に向かって「自分で説明して」と言った。
「自分は、ハンターなんです。ここしばらく毒を得意にしてて、仲間からはギララと呼ばれています」
「ギララ?」
「すみません、ヘンな名前で」
「いや、なかなか毒っぽくていいんじゃないかな。で、どうしたの?」
「今さっき、なかまと火山クエに出発したはずなんですが、気がついたらここに来ていて。ここ、火山ぽくないし」
「火山は、あいにく、この近くにはないね」
「じゃあ、今回はリタイアするしかないって感じですね」
「だね」
「しかし、せっかくなので、なにか採取させてもらっていいですか?」
「採取?」
 とリルが首を横にかしげた。
「ハチミツとか」
「わるいけど、今はハチミツの季節じゃないわ。台所に、ビンに残っている分は少しあるけど」
「ビンに、ハチミツを入れるのですか? それは、聞いたことがないな……」

 毒人間ギララさんが、あたりの採取をして回っているあいだに、リルはお茶の用意をした。毒の人に喜ばれるお茶がどういうお茶かわからなかったけれど、とりあえず紫色のお茶を選んでカップにそそいだ。

「僕は、正直、考えてしまうんです。いつまでもハンターをやっていていいのか、と」
 と少年はお茶をすすりながらつぶやいた。
「でも、ギララさんは、ハンターなんでしょ?」
「そうですが、そうじゃないとも言えます。つまり、心の中で、うずくものがあるのです。それはたぶん、罪の感覚です」
「獲物を殺すから?」
「いいえ、たぶん違います」
「君たちハンターが殺しているのは」と風の主さんが言葉をはさんだ。「もしかしたら『時間』なんじゃないかな」
「……」

 少年が去ったあと、リルが風の主に質問した。
「よかったのかな、あんなこと言っちゃって」
「え?」
「少し、しょげちゃってたよ」
「少しぐらい、いい薬さ。まあ、人のことをとやかく言える立場じゃないことは、私が一番よくわかっているんだ」
「そうね。だって、あなたは風だもの」
「そ。風だものね」




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