2013年10月2日水曜日

16. ウーマンホールな人


「私のこと、知っているかしら?」
 赤いドレスのしなやかなお姉さんの旅人が聞いてきた。
「いいえ」
 と、リルは正直に首を横に振った。
「私、ウーマンホール。最近、ここにマンホールの人が来たと聞いて、私も立ち寄ってみようと思ったのよ。よろしく」
「ウーマンホールさんですか? 女だから?」
「私は、女性としての穴の立場を代弁するの。でも、そんなこと、誤解のもとよね。だから、あまり知られていないと思うけれど、ようするに、マンホールの女性的ななにか、よ」
「マンホールさんとは仲良しさんなんですか?」
「彼は、自分がすべてだと思い込んでいるから。私の気持ちなんて、わかる人じゃないわ」
 リルと風の主は「うん、確かにそんな感じだった」と相づちを打った。

「私はね、本当は、いなくていい存在なの。ウーマンホールなんて、誰も言わないし、実用性があるというわけでもない。ただ、ヘンな話だけど、多くの人が心の底で一番気にするのが、じつはウーマンホールなのよね」
「?」
「いいの、これは、オトナの話。もし、リルちゃんが、将来、ウーマンホールになれるとしたら、どんなウーマンホールになりたいかしら?」
「さあ……」
「きっとあなたなら、暖かく包み込むような、やさしいウーマンホールになれるわね」
「ウーマンホールさん、あなた自身は、どんな感じなんですか?」
 と風の主がふわふわとたずねた。
「私は、そうね……正直、もうあんまり夢をいだくような歳ではないの。少し疲れていると言ってもいいわ。だから、誰かを幸せにするような力はないに等しいわけだけど、かといってウーマンホールとしての自信を失っているというわけでもないの」
「なるほど。なんだか地下のことって、いろいろややこしいんですね」
 と風の主が率直に感想をのべた。
「だって、人々の欲望というものは、地下に流れるものだから。知ってるかしら、それはね、とても臭いの」
「とても臭い、んですか?」
 とリルは首をかしげた。
「そうよ。私はね、あなたにこれだけは言っておきたいわ。とても臭いの。でも、人はそこに流れ着くの……」

「リル、あの女の人、面白かった?」
 とウーマンホールの人が去ってから、風の主が聞いた。
「うん。いろんな人が来るな、っていう意味で」
「『とても臭い』って言ってたね。リルには、わかる?」
「わかんない。ていうか、あの人、語るだけかたって、お茶も飲んでいかなかったよ」
「臭い話なんかしないで、お茶を飲んでいけばよかったのに」
「そうだよね〜」



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