【連作短篇小説】 風の主と暮らす小さなリル、二人はいつも仲良しだ。 旅人がやって来れば、できる限りのもてなしをして、 外の話を聞かせてもらう。 ところで風の丘にやって来る旅人は、いつもちょっとヘンだ・・・
2013年10月2日水曜日
17. サンダーマン
「よい子のみんな、僕は平和を守るサンダーマンだ」
リルは空を仰いで「ねえー、またヘンな人来ちゃったよー」と言った。
「知ってるよ、コスプレって言うんだよね」
「またまた。風の主さんは無理して今風の言葉を使って。ちがいますよね、サンダーマン」
「そうだよ、僕はサンダーマンだ。コスプレなんかじゃないからね。本物の平和の使者なのさ」
「でも、本物のサンダーマンだったら、お茶は飲めるのかなぁ?」
「リルから質問してみればいいんじゃない?」
「あのー、サンダーマンは、お茶、飲めますか?」
「水分補給はひかえめにしているんだ。トイレに行くときに困るからね」
「……え、えっとぉ、サンダーマンは、トイレに行くの?」
「それはいくだろうよ。リルも行くだろ?」
「私は行くけど、平和を守るサンダーマンは、トイレには行かないかと思ってた」
「よい子のみんな、サンダーマンだってトイレに行くけど、それでゲンメツしてもらったら困るぞ。僕の強烈なサンダー攻撃は本物だからな」
「ねえねえ、風の主さん、サンダー攻撃ってなんだろう?」
「ビリビリする感じだと思うな」
「それはすごい。バシッと光って、ビリビリって、悪をやっつけてしまうんだね」
「見てごらん、これが僕のサンダーパンチだ。えい。あれ? 出ないぞ」
「あのぉ、サンダーさん、ここではだれも特殊能力を使えないんです。そういう丘なんです」
と風の主さんが残念そうに説明した。
「そ、それは困った。悪と戦えないではないか」
「戦う必要もないんですよ、ここでは」
「そうそう、風の主さんの言うとおり。戦いより、お茶でもいかがですか、サンダーさん」
「いや、そういうことなら、お茶は遠慮するとして、少しトイレを使わせてもらっていいかな」
「どうぞどうぞ」
「で、結局サンダーさんは、トイレを借りただけで、すぐさま去ってしまった、と」
「平和を守るサンダーマンというのは、忙しそうだね」
まったりと風の主が言った。
「風の主さんも、少しみならったら?」
「いやぁ、私はのんびりするのが仕事だから。これはこれで、平和を守っている自覚、ないわけじゃないんだよ」
「おー、すごい。平和を守る風の主さま。と、いいつつ、なにもしてないけど」
「うん、まったりしているだけだけど」
「本当にそれだけよね。はっきり言って、あまり健康によくないと思うわ」
「わかってる。まあ、お茶でもしようか」
「二人で?」
「もちろんさ、平和を守るサンダーマンの活躍を祈って、サンダーティだ」
「サンダーカップに、サンダーティを入れて、合い言葉は『サンダーいたたきます』みたいな?」
「その言葉を聞いたら、サンダーさんも、きっと心から喜んでくださる。僕たちの応援する心こそが、彼の純粋エネルギーへと変換されるのだ!」
いきおいずく主に、リルは身を引いた。
「いや、それは、どうだか……むしろ、あつくるしいんですけど……」
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