2018年4月21日土曜日

21. レイコさんの悩み2


「ごめん、リルちゃんはなにも悪くない」
 とレイコさんは姿勢を正して言い切った。
「悪いのは、あのバカ娘よ」
「は、はあ……」

 リルは、いっしょうけんめい考えたけれど、よくわからなかった。
「でも……娘さん、ピアノがうまい人なんですよね」
「そうね」
「それ、いいことじゃないですか? バカ娘ですか?」
 レイコさんは、深いため息をついた。
「そう。たしかに、バカじゃない、とも言える。でも、私はピアノを認められない。それだって私のせいじゃない。そうでしょ? だったら、どうしたらいいと思う?」
「えー、わかんないよ。風の主さんはわかる?」
「僕にも、ムリ」
 どこからともなく、ふんわりと響いた声に、レイコさんが驚いた。
「あ、これは、風の主さんでして、私とこの丘でいっしょに暮らしてます」
「風の主さん、か。私も、風に、なりたいな」
 すると、風の主さんは、質問を発した。
「レイコさん、ひとつ、いいですか?」
「なにか?」
「お話、わからなくはないんです。でも、とても難しい。ここじゃなくて、もっと、ちゃんとしたところに相談に行くのがいいと思います」
「え?」
「そうそう」とリルは言った。「すごーく難しいから、ここじゃムリ。ちゃんと相談できるところにいくべき」
「それって、カウンセラーとか?」
「そう、かな」
「冗談じゃない。説明しましたけど、私自身は、なにもまちがったことをしていない。そうよね? なのに、なんで私がカウンセラーのところなんかに行かなきゃいけないのよ!」
「は、はあ……」
「まったく、バカなうわさに期待した私がまちがいでした。あなたたちが悪いんじゃない、私のミステイク。風の丘なんて、ただの子供だましよ。やくたたず。さようなら」


「リル?」
「ん?」
「落ち込んだ?」
「うん、まあね」
「人間って、難しいね」
「スポーツも、音楽も、どっちも、すごーくすばらしいのに、なぜ?」
「ほんとうにそう」
「すごーくすばらしいと、逆に、問題おこっちゃうの?」
「ははは、そうかも。ほどほどが、いちばん、だね」
「えー、ほどほどすぎて、問題なくて、退屈なのも、大問題だから!!」
 それを聞いて、風の主さんは、大笑いした。
 リルも笑った。リルは、むしろ全力で笑った。心の中で、笑ってすますしかないじゃん、とやけになりながら。




0 件のコメント:

コメントを投稿